医学部進学者向け実習のご報告
2025年2月12日(水)に、医学部進学者2名を対象とした実習を実施しました。本実習では、訪問診療や外来陪席、小学校での職業講話を通じて、地域医療の現場を体験していただきました。
■ 実習スケジュール
- 08:20 宇都宮協立診療所 集合
- 08:30 朝礼・自己紹介
- 武井医師:訪問診療
- 植木医師:訪問診療
- 11:00 外来陪席(関口医師・亀井医師)
- 12:00 昼食
- 13:30 西が岡小学校 ゲストティーチャー
- 15:00 武井医師 ミニ講義 民医連医療・地域医療について
■ 実習の振り返り
参加者からは、「訪問診療とはどういうものなのか初めて知り、学びが多かった」「患者さんとの関わり方において、医師が会話の中で医療へのアクセスのしやすさや不安な点を汲み取る工夫をしていると気づいた」などの感想が出されました。
また、「SOSをあげられない人のもとに自ら出向き、患者さんの生活状況や家族との関係に合わせたサポートを提供することで信頼関係を築くことの重要性を実感した」という意見もありました。
■ 武井医師の講義
武井医師からは、医療の社会的決定要因や経済的格差が健康に与える影響について説明し、特に困窮層の患者への医療提供の重要性について。また総合医としての役割や、専門医との違いについて詳しく説明し、患者の多様なニーズに対応することの重要性のお話がありました。
15年間の診療所での経験を基に、医療の現場で直面する具体的な課題や、患者との関わり方について具体例を交えて説明しました。特に、社会的孤立や経済的困難を抱える患者への支援の重要性が強調され、医療だけでなく地域社会全体での支援の必要性が指摘されました。
■ Q&A
Q: 地域医療における総合診療の役割とは?
A: 総合診療は、患者の多様なニーズに応じて幅広い診療を提供し、生活背景や経済状況を考慮しながら適切な医療を提供することが求められます。
Q: 経済的困難を抱える患者に対する支援の具体例は?
A: 無料低額診療事業を活用し、訪問診療や医療費支援を行いながら、患者が適切な治療を継続できるよう支援しています。
Q: 医療の社会的決定要因とは具体的にどのようなものですか?
A: 収入格差、住環境、教育レベル、労働状況などが健康に与える影響を指します。特に低所得層の患者は、十分な医療を受けられないことが課題となっています。
Q: 総合診療医としての患者との関わり方のポイントは?
A: 患者の背景を理解し、適切な言葉を選んで対話することが重要です。医師としての専門知識だけでなく、信頼関係を築くための人間的なアプローチが求められます。
武井医師 講義内容
1. 医療と社会経済的要因
武井医師「健康には社会経済的な要因が深く関わっていると考えています。かつては糖尿病は裕福な人の病気とされていましたが、現在では経済的に困難な状況にある人ほど糖尿病の罹患率が高く、合併症も多いと考えています。これは、食生活や医療へのアクセスが制限されることが影響しているのだと思います。さらに、新型コロナウイルスの流行も、社会経済的な要因が関係していることを示していると考えています。あわせて、医療は単に病気を治すだけでなく、社会的な要素を考慮する必要があると考えています。」
2. 総合医の役割と地域医療
武井医師「私は総合医(ジェネラリスト)として地域医療に携わっています。大学では総合医について学ぶ機会が少なく、診療所での実際の医療は、大学病院での専門的な診療とは異なると考えています。また、地域医療では、高齢者や経済的困窮者など、医療から取り残されがちな人々に寄り添い、全人的なケアを提供することが重要であると考えています。」
3. 総合診療の実際
武井医師「診療所では、患者が抱える問題を幅広く受け止めることが求められると考えています。例えば、高血圧の治療に訪れた患者が、実は親の介護の悩みを抱えていることもあります。また、診療所では病気の診断だけでなく、患者の生活全体を支援することが求められると考えています。加えて、総合診療医は、専門医との橋渡し役となり、患者の状況に応じた適切なケアを提供する必要があると考えています。」
4. 未分化な症状と診断の難しさ
武井医師「診療所には、診断が確定していない状態で受診する患者が多く訪れます。例えば、『熱がある』と訴える患者が、実は便秘の悩みを抱えている場合もあります。また、認知症の患者が『何となく不安だから来た』というケースもあり、総合診療医は、患者の言葉に耳を傾け、背景にある問題を探ることが重要であると考えています。」
5. 地域における医療の課題
武井医師「日本の医療制度では、病院の専門医は特定の疾患に対して治療を行いますが、総合的に患者を診る機会が少ないと考えています。そのため、複数の診療科にかかっている患者が、それぞれの診療科では問題がないとされても、全体としては健康を損なっていることがあります。このようなケースでは、総合診療医が患者の生活全体を見ながら適切な支援を提供することが必要であると考えています。」
6. 医療と社会的孤立の問題
武井医師「社会的に孤立している人々は、医療にアクセスする機会が少なく、健康リスクが高まると考えています。例えば、一人暮らしの高齢者が医療機関を受診せず、体調が悪化した結果、救急車を呼ぶことになる場合もあります。このような状況を防ぐためには、地域全体で支え合う仕組みを作ることが重要であると考えています。あわせて、医療生協や移動販売車などの取り組みが、地域のつながりを強化する手段となると考えています。」
7. 患者中心の医療
武井医師「医療の目的は単に病気を治すことではなく、患者の生活全体を支えることであると考えています。例えば、透析が必要な患者に対しても、単に透析を勧めるのではなく、患者の価値観や経済的事情を考慮しながら最適な選択を一緒に考えることが重要であると考えています。また、医療の正解は一つではなく、患者の状況に応じた柔軟な対応が求められると考えています。」
8. 医師としての姿勢
武井医師「医師は、診断や治療を行うだけでなく、患者の不安を取り除くことも重要な役割であると考えています。例えば、『将来的に透析が必要になるかもしれない』と伝えることで患者が強い不安を感じることがあるため、言葉の選び方や伝え方にも注意を払う必要があると考えています。さらに、正しい情報を伝えることだけが医師の役割ではなく、患者にとって最も良い影響を与えることを考えるべきであると考えています。」
9. 医療の未来と学生へのメッセージ
武井医師「医療の未来を担う学生には、積極的に学び、失敗を恐れずにチャレンジすることの大切さを伝えたいと考えています。医療の現場では、すべてのケースに正解があるわけではなく、時には試行錯誤が必要となることもあります。また、失敗から学び、より良い医療を提供できるよう努力することが重要であると考えています。加えて、医療は単に病気を治すだけでなく、社会との関わりの中で成り立つものであり、その視点を持つことが求められると考えています。」
この講義を通じて、学生たちは医療の幅広い役割や、地域医療の現状、総合診療医の重要性について学ぶ機会を得ることができました。