新たな一歩を共に踏み出す
― 2025年度 栃木民医連 新入職員研修レポート ―
2025年4月1日、栃木民医連では新たに入職された方を対象とした新入職員研修が開催されました。この研修は、栃木民医連が目指す医療や福祉の在り方、そして“地域に根ざした実践”を新たな仲間と共有する、大切なスタートの場です。
当日は、4人の講師からそれぞれの実践や思いが語られました。医師・看護師・事務職・外部講師、それぞれの立場からのお話により、まさに「医療・福祉は人と人との協同である」ことを実感できる一日でした。
◆ 関口理事長「健康の社会的決定要因(SDH)から考える“支える医療”」
冒頭の講話は、関口理事長(医師)による「健康の社会的決定要因(SDH)」をテーマとしたお話でした。
一見すると専門的に感じられるテーマですが、関口先生の語りはユーモアも交えつつ、とても分かりやすく、むしろ「私たちの暮らしの話」としてスッと胸に届く内容でした。
「血圧が高いのは“しょっぱいもの”が好きだから。糖尿病なのは“甘いものを控えない”から……本当にそうでしょうか?」
そう問いかけた関口先生は、生活習慣病の背景には、実は“生活そのもの”があると丁寧に語ります。たとえば、子どもの頃からの食文化、非正規雇用や物価高による経済的困難、病院へのアクセス手段の不足など、「個人の努力ではどうにもできない健康リスク」があるという現実を私たちに深く問いかけました。
「健康は“努力”だけでなく、“条件”で決まる部分が大きい。それに向き合うのが、私たち民医連の役割です」
この言葉は、医療の専門職であるかどうかに関わらず、すべての職種に向けられたものであり、医療の根本的な姿勢を示すものでした。
さらに、協立診療所やふたば診療所が取り組む「無料・低額診療制度」の説明もありました。医療費の一部負担が困難な方へ、条件を満たせば負担を免除・軽減する仕組みですが、それでも「言い出せない」「恥ずかしい」と思ってしまう現実もある。
「“怠け者だから貧困”ではなく、“一生懸命でも貧困に陥る”社会。そこに寄り添う医療を目指したい」
理事長の言葉からは、「人間をまるごと受け止める視点」の大切さが伝わってきました。
◆ 宮本専務理事「医療生協の原点に立ち返って ― “協同”でつくる医療と福祉」
次に登壇したのは、栃木保健医療生協 専務理事であり、栃木民医連副会長でもある宮本進さんです。
宮本さんは、「医療生協とはなにか?」その歴史的背景から理念、そして現在の実践までを熱く語ってくださいました。
特に印象的だったのは、産業革命時代のイギリスにおける“生協”の誕生エピソード。劣悪な労働環境と粗悪な食品があふれていた当時、労働者たちが「自分たちで良質な食材を仕入れ、共同で消費する」仕組みを作ったことが生協の始まりだったと紹介されました。
「出資・利用・運営――この3つを協同で行うのが生協です。そして1人1票の原則は、誰もが対等な関係で事業に関われるということでもあります」
さらに、生協は単なる“サービスを提供する側”にとどまらず、「地域の健康と暮らしを共に守る住民組織」であるという視点を繰り返し強調されました。
講話の途中では、栃木保健医療生協の理念を新入職員と一緒に音読する場面もありました。声に出すことで、「理念が“文字”から“行動”になる」瞬間を感じられた時間となりました。
「理念は壁に貼ってあるだけでは意味がない。日々の実践に落とし込むことが大事です。だからこそ、今日から“仲間”として共に理念を育てていきましょう」
その言葉に、私たちは組織の一員として、地域とともに歩む責任と希望を感じたのでした。
◆ 諏訪看護師長「誰もが“つながれる場所”を ― カムカムの実践から見える地域の力」
3人目の講師は、生協ふたば診療所の諏訪看護師長。
「楽しみながら地域に飛び出そう」というタイトルで、「カムカム」の取り組みについて熱心に語ってくださいました。
カムカムとは、診療所が拠点となり、子どもや高齢者、地域住民が気軽に立ち寄れる“まちの保健室”のような居場所。診療所という医療の場が、地域のつながりを生み出す“ハブ”となっている事例です。
活動の原点には、「診療所で出会った気になる子どもたち」の存在がありました。
精神疾患を抱えた母親に育てられる子、夏休みになると食が細くなる子、学校に通えていない子――診察室では語りきれない“暮らしの困りごと”が見えてくる中で、「外来だけでは救えない何かがある」と感じたと言います。
「子どもたちに“おいで”と言える場所を作りたかった」
その思いが周囲に広がり、組合員や元教員、非常勤スタッフなど、多くの仲間がボランティアとして協力してくれるようになりました。
カムカムは今や、子ども食堂としてだけでなく、看護師や福祉職が常駐し相談もできる“暮らしの保健室”としても機能しています。
「困っている人に寄り添い、楽しく続けられる活動にしたい」
という諏訪さんの姿勢は、医療の現場にいる私たちが“地域の希望”になることができるという力強いメッセージでもありました。
◆ 菊池先生「“信頼と安心”が選ばれる鍵に ― 医療・福祉のCSを学ぶ」
最後に講師として登壇されたのは、CS(Customer Satisfaction=顧客満足)の研修講師として多くの医療・福祉現場に関わる菊池先生。
「選ばれる医療・福祉になるために必要な“信頼と安心”」というテーマで、実践的かつユーモアたっぷりに講話が展開されました。
「今の時代、医療や介護でも“接客の質”が問われる時代になっています」
と先生は語ります。お客様=患者・利用者だけでなく、家族・同僚・地域住民など、すべての人に対して「信頼を届ける接遇」が求められているのだといいます。
特に印象的だったのは、
「自分がされて嬉しいことを、相手にもする」
という言葉。目を見て話す、名前で呼ぶ、断るときも思いやりを持つ――どれも基本的なことですが、だからこそ「誤解されないための防御技術としてのマナー」の重要性が強調されました。
講話の最後には、新入職員が3人1組でワークに取り組み、「相手を褒める」練習も。笑いと安心に包まれながら、「人と関わることの本質」に改めて気づく時間となりました。
◆ 私たちは“理念の実践者”として、地域と生きる
4人の講師による講話は、それぞれが異なる角度から「医療・福祉の本質」に迫るものでした。
共通していたのは、“誰かを支えること”と、“地域と共にあること”の大切さです。
「医療は人を診るだけでなく、人の背景とともにある」
「理念を行動に移す力こそ、組織の根幹」
「医療機関は地域の希望を生む場にもなれる」
「信頼と安心が、人を呼び、支える力となる」
この日の学びを胸に、新入職員の皆さんが地域に根ざした実践を重ねていくことを、私たちは心から応援しています。
そして既存職員にとっても、この研修は“初心”に立ち返る機会となりました。